見ているだけで、なぜか懐かしくなる
山形県鶴岡市に残るレトロ建築の面白さ

今、全国各地でレトロな街並みを歩くのがひそかなブームなのだそう。
仲間で歩くのもよし、一人歩きもよし。

郷愁漂う建築物はなんとも絵になるので、最近手軽に安く利用できると評判のレンタル着物(できれば袴で!)などでの装いも、お勧めしたいところです。

そんなレトロ散歩にぴったりな街が、庄内藩14万石の城下町として栄えた鶴岡市。
街なかには、明治・大正時代に建てられた建築物がいくつも点在しているのです。

2019年6月18日に発生した山形県沖地震の影響はなく、通常通り開館しているとのことです。

致道博物館(ちどうはくぶつかん)で2つの重要文化財を見てみよう

最初にJR鶴岡駅からバスで10分の致道博物館へ。ここは旧鶴ヶ岡城の三の丸にあたり、かつては庄内藩・酒井家の広壮な屋敷があった場所。
1950年に地方文化の向上発展を目的として、酒井家より土地建物および伝来の文化財などが寄贈され創設された博物館です。

博物館といっても中は広く、敷地面積は3000坪以上! その中にいくつもの建物と庭園が広がっています。
見どころはいろいろありますが、まずはこの博物館の目玉。移築復元された2つの重要文化財を見てみましょう。

創建当初の姿に復元された旧鶴岡警察署庁舎はレア度高し


一番初めに見たいのが、重要文化財・旧鶴岡警察署庁舎。園内に入ってすぐ左手。外の駐車場からもよく見える水色の建物です。

この建物、実に4年半もの間、半解体保存修復工事が行われていて、2018年6月にようやく公開されたもの。なので、まだまだ初々しい姿なのです。しかもこの工事によって、明治17(1884)年の創建当初の姿に復元されました。

外観は実に美しい水色。公共施設、まして明治初期の警察署だったとは思えないオシャレな建物です。
実は驚くべきことに、修復前の外壁の色は白だったのです! 古いガイドブックやブログには以前の白い建物が写真に写っていますが、今回の修復工事の際、昔の塗料が残っていた部分が見つかり、当時の色をできるだけ再現したところ、このような鮮やかな水色になったそうです。新装写真は新鮮で貴重。早く訪れるほど自慢できますね。

もうひとつ、修復前にはなかったものが外観に復元されました。それが屋根に取り付けられているフィニアル(屋根の頂部飾り)です。建物内部でも、取調室の復元など、興味深いものがあります。

この建物はいわゆる擬洋風建築。日本人の大工さんが、西洋建築をまねて造った建築です。設計は大工棟梁の高橋兼吉。「明治前期に建設された擬洋風建築のひとつの到達点を示すもの」と高く評価されています。

1階は入母屋、2階は瓦葺きの屋根と和テイスト、玄関ポーチや縦に細長い上げ下げ窓など内装はルネッサンス様式とそのバランスも見事。軒下には手の込んだ鶴の飾りが施されています。

面白いのは復元された取調室。階段状の段差があり、高い段には椅子が一つ。恐らくは椅子に取調官が座り、低い場所に被疑者が正座して尋問されていたのではないかと想像されます。

文明開化の面影を残す旧西田川郡役所


致道博物館の顔とも言える洋風建築が重要文化財・旧西田川郡役所です。旧鶴岡警察署庁舎よりも3年早く、明治14(1881)年に建てられました。

赤い瓦と白い外壁が美しい擬洋風の木造の建物で、1階は横に長く、中央には大きな扉の玄関、その上はバルコニー付きの2階建て、その上には時計台――「擬洋風建築」と呼ばれるこうした建物は、なんともロマンチックな趣で、ひときわ目を引きます。

屋内もまた和洋がうまく融合した華やかな内装。支えがない“釣り階段”、ルネサンス様式の手すりなどから、「鹿鳴館時代を偲ぶことができる空間」といわれるのも頷けます。こんな素敵な建物が役所として機能していたなんて、なんとも羨ましい時代です。明治天皇の東北御巡幸の際には宿舎にも利用されました。

鶴岡にこうした擬洋風建築が残っているのは、初代の山形県令(現在の県知事)であった旧薩摩藩士・三島通庸(みしまみちつね)が、明治新政府の威容をあらわすために建築を命令したと伝えられています。とはいえ、その命令を受け、このような素晴らしい建築を残した庄内の大工棟梁たちの技術の高さは称賛されるべきでしょう。

なお、この旧西田川郡役所。一部のファンの間では、スタジオジブリの人気映画「コクリコ坂から」に登場する建物「カルチェラタン」のモデルではないかと噂されています。ただ実際には、「似ているといえば似ているかな」というレベル。みなさんの目でも確かめてみてください。

インパクト重視なら外せない大正天皇ゆかりの大寶館


致道博物館から徒歩数分の鶴岡公園(鶴ヶ岡城跡)内には大寶館があります。

こちらは大正天皇即位を記念して、大正4(1915)年に建造された擬洋風建築の建物。白い外壁に、赤い帽子のようなドーム型の尖塔が特徴的。なんともモダンです。

入り口正面に「大寶館」と大きく書かれた看板はインパクト大。他の建物とは違う個性が光るだけに外せません。ちなみに、「大寶館」の名前は、中国の易経にある「天子の位を大寶という」ことから名付けられたそうです。

屋内も、階段に大正浪漫の香り漂うレトロな装飾が施された手すりがあったり、バロック風の窓が残されていたり、細かいところまで当時の遺産がちりばめられています。
かつては物産陳列場や市立図書館として使われてきましたが、現在は郷土人物資料の展示施設となっています。

西洋建築の模倣から始まった日本の建築が、しだいに独自性を持つようになってきた大正初期。そうした大正建築時代の優美さをほぼ完全に原型をととどめている大寶館は、全国的に見てもきわめてユニークな存在といえるでしょう。鶴岡市の有形文化財に指定されています。

外観だけでなく内部も必見の鶴岡カトリック教会天主堂


鶴岡公園から5分ほど歩いたところにも、白亜な外壁に赤い尖塔が印象的な鶴岡カトリック教会天主堂があります。

この建物は、フランス人のパピノ神父の設計により、鶴岡の大工・相馬富太郎が明治36(1903)年に創建したといわれています。中世ヨーロッパのロマネスク様式を取り入れ建てられた建物で、やはり国の重要文化財に指定されています。

レトロでメルヘンチックな外観もさることながら、必見は内部にあります。入り口が開いていたら、中に入ってみましょう。

内部は教会堂特有の三廊式。中央に身廊、両側に側廊と呼ばれる部分を配置しています。身廊の高い天井と側廊の低い天井。祭壇の高い窓から陽の光が降り注いできます。面白いのは中央の身廊に畳が敷かれていること。畳の上にパイプ椅子が並べられ、素朴な雰囲気が醸し出されています。

さて、この天主堂での必見は左側の側廊にある「黒いマリア像」。創建当時に、フランスのデリブランド修道院から贈られた、世界でも珍しいフランス製の貴重な黒いマリア像です。当然ながら、日本ではここにしかありません。マリアだけでなく胸に抱かれている幼子イエスも黒い顔です。

さらに驚くことに、天主堂にはもうひとつ、日本ではここでしか見られない「ステンドグラス」があります。透明な紙に描かれた聖画をガラスで挟んだ「窓絵」。これもまた必見です。恐らくは、高価なステンドグラスに代わるものとして考案されたのでしょう。ぜひ足を延ばしてみてください。

<データ>
致道博物館(旧鶴岡警察署庁舎、旧西田川郡役所)
【住所】山形県鶴岡市家中新町10-18 map
【電話】 0235-22-1199
【FAX】0235-22-3531
【交通】JR羽越本線 鶴岡駅より庄内交通バス あつみ温泉方面行または湯野浜温泉行で12分(270円)、致道博物館前下車徒歩2分
車 山形自動車道鶴岡ICより10分
【開館時間】:9時〜17時(入館は16時30分まで)
※12月~2月は9時〜16時30分(入館は16時まで)
【休館日】年末年始(12月28日~1月4日)、12月~2月は毎週水曜日
※展示替のため一部休館することがあります。
【入館料】:一般800円、学生400円、小中学生300円
【駐車場】無料
https://www.chido.jp/

<データ>
大寶館
【住所】山形県鶴岡市馬場町4-7(鶴岡公園内)map
【電話】0235-24-3266
【交通】JR羽越本線 鶴岡駅より庄内交通バス あつみ温泉方面行または湯野浜温泉行で11分(210円)、鶴岡市役所前下車徒歩2分
車 山形自動車道鶴岡ICより10分
【開館時間】9時~16時30分
【休館日】水曜日(祝日の場合は次の平日)、年末年始(12月29日~1月3日)
【入館料】無料
【駐車場】鶴岡公園駐車場を利用 無料

<データ>
鶴岡カトリック教会天主堂
【住所】山形県鶴岡市馬場町7‐19 map
【電話】0235-22-0292
【交通】JR羽越本線鶴岡駅より庄内交通バス 鶴岡市内廻り2コースで7分(210円)、マリア幼稚園前下車徒歩6分
車 山形自動車道鶴岡ICより10分
【開館時間】:(4月~9月)8時~18時
(10月~3月)8時~17時
※毎週日曜日はミサのため、午前中に見学できない時間帯があります。
【入館料】無料
【駐車場】2台/無料
http://www.turuoka-catholic.or.jp/

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