こんな野菜は見たことがない!
農家が守り続けた庄内の在来作物たち

ピンク色の細長いかぶを見たことはありますか。
タマゴみたいにころっとした茄子があるのを知っていますか。
庄内地方には、在来作物と呼ばれるその地域独特の伝統的な野菜があります。
八百屋やスーパーでは見たことのない形をした在来作物は、見た目だけではなく味や食感にも特徴があり、そこにはさまざまな人の思いやこだわりが込められているのです。
今回は、そんな在来作物にまつわるお話を少しばかり紹介します。

その土地、その地域でしか作られない在来作物

在来作物とは、特定の土地や気候でしか育てられない農作物で、先祖代々、その地域や家柄だけに受け継がれてきた特殊な農産物です。

一般に流通する野菜と違って、在来作物は場所と作る人を選びます。同じ種であっても、場所を変え、育て方を変えると、実をつけなくなったり、まったく育たなかったりします。適地適作という言葉をまさに体現した農作物で、他の品種と交配しないよう厳しく管理し、丁寧に自家採種をして受け継がれてきました。

しかし、在来作物は伝統的な農法でなければ栽培できず、収量も少なく売りづらいため、ほとんどの農家で作らなくなってしまいました。

そんな中でも、自分の家で食べるためだけに、細々と作りつづけていた農家もわずかながらありました。
「この野菜でないと漬物がうまくない!」とか「ご先祖さまから受け継いだ種を自分の代で絶やすわけにはいかない」などの思いから、大切に守り続けてきたのです。

種は、一度絶やせば二度と同じものは生まれません。在来作物は何十年、何百年もかけて作られてきた品種です。しかも、種の選別は長年の経験によって養われた目が不可欠であり、簡単に機械で代替できる技術ではありません。

「自分がやめればこの世から完全に消えてしまう」。先祖代々受け継がれてきた技術や文化の結晶を、自分だけの判断でやめてしまうというのはあまりに重い選択です。だから、とりあえず次の代に送る。そう思えば、作りつづける使命感を負わされた農家さんの気持ちが、少しだけ理解できるのではないでしょうか。

在来作物とイタリアンシェフとの出会い、そしてユネスコ食文化創造都市へ

そんな在来作物が、あるイタリアンシェフとの出会いによって注目を浴びることになります。「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフです。
地元の食材にこだわったイタリアンシェフが、伝統的な在来作物に目をつけたのです。

この地域でしか作れない野菜には、この地域にしかない味や香りがあるとして、素材の風味を最大限に引き出すレシピを奥田シェフは生み出しました。

山形大学農学部の江頭宏昌教授の研究も、在来作物が全国に知れ渡るきっかけとなりました。在来作物は、何十年、何百年と続いてきたその地域の農業や食文化を伝えてきた「文化財」であるとして、その価値を説いてきたのです。

つけもの処 本長 」も在来作物の存続に貢献してきました。在来作物の漬け物を作り、地元でも忘れられていた、たくさんの品種を魅力あるものにしたのです。

この庄内独特の野菜、食文化への取組を題材にした映画「よみがえりのレシピ」が地元出身の映画監督によって作られました。「よみがえりのレシピ」は2011年の山形国際ドキュメンタリー映画祭に出品されて全国的な話題となり、庄内をはじめとする山形県の在来作物の存在が広く知られることになります。

こうした在来作物をはじめとする庄内独自の食文化が評価され、2014年、鶴岡市は国内唯一の食文化創造都市としてユネスコから認定されました。

庄内の代表的な在来作物 4選

山形県には現在確認されているだけでも170種類以上の在来作物があるといわれています。
庄内ではそのうち80種以上の品種が受け継がれています。その中から、ここでは代表的なものを4種だけ紹介いたします。

民田茄子


「めづらしや山をいで羽の初なすび」という松尾芭蕉の句があります。この「初なすび」、鶴岡市の民田地区にある在来作物「民田茄子」だったといわれています。
300年以上前、民田に神社を造る際、京都から来た宮大工が持ち込んだ一口茄子が起源とされています。

ころころとした玉に、すっぽりとへたをかぶってしまうくらいに小ぶりの民田茄子。
成長させれば大きくなるようですが、3~4センチくらいが食べごろになります。
皮がかたく、果肉がしまっているのが特徴で、しっかりとした歯触りの良さは、からし漬け、浅漬けなどに最適です。

藤沢かぶ


鶴岡市藤沢地区は、作家・藤沢周平のペンネームの由来ともなっている地域です。
藤沢かぶは、明治時代にはすでにこの地域で作られていたようですが、その歴史や由来については、もはや語り継げる方がおらず、不明とされています。

かぶというより小ぶりの大根といった見た目で、根元のあたりが濃いピンクに色づいているのが特徴です。
皮が薄く、みずみずしい藤沢かぶは、ぱりっとした食感で食べやすく、たまり漬けや甘酢漬けにして食べるのが好まれています。

藤沢かぶの外にもたくさんの在来かぶが各地域にあり、どれも伝統的な焼畑農法で育てられています。8月中旬に行くと、焼畑の様子が見られるかもしれません。

外内島きゅうり


外内島きゅうりの起源は定かではありませんが、弘法大師が出羽三山に向かう途中に、このきゅうりで渇いたのどを潤したという言い伝えがあります。それくらい古くからあるようです。

外内島きゅうりは、一般によく知られたきゅうりよりもずんぐりとした見た目をしています。皮が薄くて、しゃきしゃきとした歯触りです。今のきゅうりはクセがなくて食べやすくなりましたが、外内島きゅうりは昔ながらの苦みが特徴で、この苦みがあるからこそ出せる漬け物の味があるという方もいます。

だだちゃ豆


山形県を代表する枝豆・だだちゃ豆も在来作物です。

茶色がかった産毛の生えたさやが特徴的で、甘み、香りの強さが有名です。
一口にだだちゃ豆といっても、小真木、細谷など地区ごとに別々の品種があり、風味や収穫時期も微妙に違います。

野菜の物語を訪ねて庄内へ

在来作物には、その土地、その地域にだけ伝わってきた独自の暮らしや文化が詰まっています。

それだけに、どの在来作物にも、一つひとつ、その野菜にまつわる物語を語れる方がたくさんいます。
作り手である生産者はもちろん、地産地消のレストラン(緑のイスキア土游農) 、昔ながらの味を守る漬物店 など、お話を伺ってみれば、きっとうれしそうに話をしてくれるはずです。

ぜひ一度、直接足を運んでみてください。地元の方々から面白い話が聞けるかもしれませんよ。

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