鶴岡市の広々とした田園のなかに、ぽつんと一軒、イタリアンレストランがあります。
お店の名前は「穂波街道 緑のイスキア」。
本場イタリアで修業をしてきた職人が作る、本格的なナポリピッツァが食べられるという名店です。駐車場には県外や関東からの車がずらりと並ぶほどの人気。
そんなにおいしいの? いや、そもそもナポリピッツァって何だ?
ふつうのピザとどう違うの? これはぜひ、直接、教えてもらいたい!
今回は、本場仕込みのピッツァ職人さんとピザづくり体験をしてきました。
東北初!「真のナポリピッツァ協会」の認定店
庄内空港から車で約30分。鶴岡駅からは10分ほどのところに「穂波街道 緑のイスキア」はあります。
トマトのように真っ赤な看板が目印。道路沿いの目立つところに立っているので、まったく迷いませんでした。
小道に入ると、すぐに田んぼや畑に囲まれたレストランに到着です。
白くてかわいらしい洋風の建物で、すぐ隣にはきれいな洋風の庭があります。天気がよければ、こちらの庭でも食事ができるそうです。
出迎えていただいたのは、庄司建人さん。今回ピザづくり体験を指導してくださるシェフです。
庄司シェフは、本場イタリアのナポリ湾に浮かぶイスキア島で修業を積んできた本物のピザ職人「ピッツァヨーロ」です。
そんな庄司さんがとり仕切る「穂波街道 緑のイスキア」は、ナポリピッツァの伝統的な技術を守るために活動をしている団体「真のナポリピッツァ協会」の認定を受けています。全世界で296番目。日本では26番目であり、東北で初の認定店です。
伝統の作り方を大切にするナポリピッツァ
一般的になじみのあるピザといえば、サラミやウィンナー、トマト、オリーブ、きのこなど、さまざまな具材が乗っているものを思い浮かべます。
それに対して、ナポリピッツァはとてもシンプル。ピザ生地の上に、トマトソース、チーズ、バジル、オリーブオイル。これだけです。いわゆるマルゲリータと呼ばれているピザです。
「真のナポリピッツァ協会」では、さらに道具や作り方などにきびしい条件があります。「生地は手だけを使って延ばす」とか「窯の燃料は薪もしくは木くずとする」といったものがあります。生地の材料も小麦粉、水、酵母、塩のみ。とにかく素材と技術にこだわった伝統的な作り方が要求されます。まさに職人の技ですね。
持参したエプロンを着けて、厨房の中へ。
まずは庄司シェフがデモンストレーションを見せてくれます。
ゆっくり、丁寧に、ポイントごとに動きを止めて説明してくれます。一方で、無駄のない動きでピザを形づくっていく職人の手つき。シェフの話を聞きながら、つい見惚れてしまいました。
年季の入った木製のパーラに、具材を盛った生地を乗せ、窯の中へ。
こちらのピザ窯、ナポリの伝統的なメーカーから取り寄せた逸品です。
窯の中のピザは、縁がみるみるふくれていきます。たった1分半で焼き上がりました。
縁に小麦色の焦げ目がつき、とろとろのチーズがぐつぐつと煮立っています。
この縁のおかげで、溶けたチーズとトマトソースが外に流れ出ないようになっているようです。ピザ生地そのものが器になっているのですね。
いざ、初めてのピザづくり体験へ。うまくできるか心配
デモンストレーションの後、私たちもピザづくりに挑戦です。
まずは生地から。生地は発酵させる時間が必要なので、前日にシェフが仕込んでくれたものを使います。
クリーム色のまん丸の生地は、見るからにやわらかくて気持ちよさそうです。
生地を台に乗せ、平たく伸ばしていきます。
思ったよりもしっとりとしてやわらかく、指に吸い付いてきます。乱暴に扱うと破けてしまいそうな、やさしい手触りです。中心から外に向かって、爪を立てずに押し広げる。生地の端は、土手を作るように盛り上がったかたちに残しておきます。
生地の準備ができたら、次は味つけと具材に入ります。
最初にトマトソースをかける。それをスプーンの底で広げる。ここでポイントなのが、あえてムラが残るように大ざっぱに塗ること。見た目には美しくないかもしれませんが、ソースの厚いところと薄いところを作ることで、一枚のピザに味の変化を出して飽きさせないようにするのだそうです。
次にモッツァレラチーズを乗せていきます。ここでも、味の変化を楽しむために、あえて大ざっぱにばらまきます。
バジリコ(バジル)を散らします。こちらはイスキアさんで自家栽培されたもの。収穫されたばかりなので、ちぎると新鮮な青い香りが漂います。
パルミジャーノを削った粉チーズを振りかけ、最後にオリーブオイルを“の”の字に垂らして完成!
ここから先は窯の中に入れる作業なので、庄司シェフにおまかせです。
私のつくったピザが、薪の火に照らされて少しずつふくらんでいきます。
ちゃんと焼けるだろうか、と子を心配する親のような気持ちになります。
無事焼き上がったピザを手にして、急いで記念撮影。
冷めないうちに、急いでテーブルへ運びます!
手づくりの醍醐味は形も味もそれぞれ違うこと
さっきまで生の生地だったものが、こうして焼きあがったピザとして目の前にある!
小麦粉のほんのり甘く焦げた香りが漂います。パルミジャーノの粉チーズもいい匂いです。
ささやかな作業でしたが、「自分のピザだ!」という実感が湧いてきます。
口に入れた瞬間――「こんなにおいしいピザは初めてだ!」。
まず、すごいと思ったのは、トマトソースの風味でした。味が濃くて強く、ほのかに酸味もあります。完熟トマトをそのまま食べているかのようでした。こちらのソースは有機トマトのピューレに、味付けは塩のみ。「そんなにシンプルでこの味が?」と驚きです。
とろとろに溶けたモッツァレラチーズも、トマトソースによく絡んでいます。
そして、ピザのトレードマークでもある、縁の部分。焦げ目がついて、外はパリッ、中はふわふわ、もちもちの食感。小麦粉の香りもしっかり鼻から抜けていきます。
バジリコの香りもアクセントでした。ハーブのさわやかさが一枚のピザを飽きさせずに食べさせてくれます。
ピザ生地、トマト、モッツァレラチーズ、粉チーズ、バジリコ、オリーブオイル。たったこれだけのシンプルな素材で、最高のピザが作れてしまいました!
シェフは言います。「均一な味がいいのならば、機械で作ればいいんです。手づくりの醍醐味は、それぞれ形が違って、味も違うということ。具材も味付けもシンプルにして、素材の味を楽しむ。それがナポリピッツァなんです」。
歴史ある農家からイタリアンレストランへ
ところで、今回伺ったお店の正式名称は「穂波街道 緑のイスキア」。
「穂波街道」? 鶴岡にそのような街道はなかったはず。
じつは、こちらの「緑のイスキア」、前身は「穂波街道」という名前で庄司シェフのお母さまが始められたお店だったそうです。
お母さまは現在でも店長としてお店に立たれています。お店では「マダム」と呼ばれていたのが印象的でした。もともとは東京のご出身で、鶴岡の農家に嫁いできたのだそうです。
嫁ぎ先は、代々続く農家でした。しかも、なんと21代目!
そして、今回の体験で指導していただいた庄司建人シェフは22代目ということになります。
22代目というと、いったい何百年の歴史があるのでしょうか。1代を20年としても440年以上……。
それだけの時間を連綿と受け継いできた農家が、現在では本格的なナポリピッツァが食べられるイタリアンレストランへと姿を変えて、多くの人から人気を博しているのです。
農業が盛んな鶴岡で、農家の伝統とイタリアの職人の技を楽しめる農家レストランのピザづくり体験。ぜひ、皆さんも体験してみてください!
(データ)
【住所】山形県鶴岡市羽黒町押口川端37-7 map
【電話】0235-23-0303
【交通】JR羽越本線鶴岡駅よりタクシーで約10分(1050円程度)、庄内空港よりタクシーで約30分(5550円程度)。バスの場合は、鶴岡駅より庄内交通バス清川行きで7分(270円)、大半田住宅前下車徒歩5分。ただし、バスは平日3便のみの運行のため、車かタクシー利用が望ましい。
【ピザづくり体験予約】1週間前まで。4名より(大人数の場合はエプロン持参。予約時にお問合せください)。ピザづくり体験以外にも、レストラン近くの畑で野菜の収穫体験もあり。採れたて野菜を味わいたい方は問い合わせを。
【ピザづくり体験料金】大1800円、子ども900円
【ピザづくり体験時間】40分
【営業時間】ランチ11時~14時 ディナー17時30分~20時30分
土日休祝日は各30分延長
【定休日】火曜日(火曜日が祝日の場合は翌日休み)
【駐車場】あり/無料
穂波街道 緑のイスキア http://www.honamikaido.com/