あごだしに極薄のワンタン!
酒田ラーメンの伝統を継承する名店3選

山形県は日本で一番ラーメンを食べる県だと言われています。
たとえば、都道府県庁所在市及び政令指定都市別にみた統計によると、家計から中華そばへの支出額が最も多いのは山形市とか。
そんな山形のラーメンといえば「冷やしラーメン」が有名ですが、庄内地方には酒田市を中心に昭和初期から続く伝統の酒田ラーメンがあります。
あっさりしているから毎日でも食べたくなる、酒田ラーメンの魅力とは……?

酒田ラーメンの歴史を知ればもっとおいしい


酒田ラーメンの始まりは、大正の末頃に中国出身の人が始めた支那そば屋さんだと言われています。そこからさまざまに派生して、今の酒田ラーメンに発展しています。

酒田ラーメンの歴史を知るうえではずせない代表的なお店は、「大来軒」「三日月軒」「満月」の3店です。

「大来軒」は酒田市中央東町で1930(昭和5)年に開店した、酒田ラーメンの草分けともいえるお店です。後継者不足のため2003年に閉店してしまいましたが、その後、最後の弟子が2013年に営業を再開。これが現在の「大来軒中央支店」です。

その大来軒で修業した店主が始めたのが、1956(昭和31)年創業の「三日月軒」。前述のように、酒田では大正の末頃に中国出身の人が始めた支那そば屋さんがいくつかできましたが、そのうちの一つが「三日月軒」という店名だったそうで、それにちなんで名づけられました。

大来軒や三日月軒とルーツを異にするのが、1960(昭和35)年創業の「満月」。日和山の近くにあった大衆食堂「港月食堂」(現存せず)で修業した店主が始めたお店です。創業者は「港月食堂」でラーメンやワンタンを習い、それに改良に改良を重ねて現在のような極薄ワンタンメンを確立させていったと言われています。

酒田ラーメンを知り、その味を楽しむには、まず初めにこの3店をおさえておくとよいでしょう。

最大の特徴は、あごだしのスープと極薄ワンタン

そんな歴史ある酒田ラーメンですが、どんな味わいのラーメンなのでしょうか。
知れば知るほど食べたくなるはず。まずは酒田ラーメンの特徴を知っておきましょう。

酒田ラーメンの特徴の一つ目は、透明ですっきりとした、しょうゆ味のスープ。脂っこさはほとんどなく、あっさりしているのに、驚くほど奥深い味わいです。

その秘密は、煮干しと昆布からとるだし、それからトビウオ(あごだし)です。そのほか、かつお節やさば節など複数の魚介系だしが加わり、さらに豚骨や鶏がらなどの動物系だしも組み合わさってこの重層的な旨味のスープになります。

レンゲでスープをすすると、最初はあっさりしてパンチが少ないように感じられるかもしれませんが、そのうち複雑な旨味が広がって、ついついスープを飲む手が止まらない……! 脂っこさもほとんどないので、飽きず、胃もたれせず、最後まで飲み干したくなるようなスープです。

二つ目の特徴は、透けるほど薄い皮のワンタン。酒田ラーメンの多くのお店では、ワンタンメンがメニューにあります。一説によれば、もともとは「来々軒」がこの極薄ワンタンを始めたといわれています。

酒田のワンタンは、レンゲですくうのが難しいほど繊細です。口に運ぶと、驚くほどなめらかな舌ざわり。具は控えめな量のひき肉が基本で、お店によってはエビを入れるところもあります。

すっきりとしたしょうゆ味のスープとなじんで、ふるふるのとろとろ。
他の地域では食べられないような、特徴的なワンタンです。

麺はつるんとした多加水麺。口当たりはつるつる、もちもちとして、やわらかいのにコシがあります。太すぎず細すぎず、表面に少し凹凸があるので、あっさりしたスープもよくからみます。

酒田はラーメン屋さんの自家製麺の比率が日本一だとか。各店のこだわりの自家製麺を食べ比べるのも楽しいですね。

いざ実食! 3軒の酒田ラーメン店の代表メニュー

■酒田ラーメンのパイオニア!「大来軒(だいらいけん)」

大来軒中央支店:中華そば(600円)。
さっぱりとして魚感を強めに感じるスープ。やややわらかめの麺ですがコシがあります。表面に凹凸がある麺で、スープとよくからみます。
ネギと細切りメンマとチャーシューが3枚のっています。普通盛りでも麺の量がとても多いので、心して食べるべし。小盛りは50円引き、大盛りは100円増しです。

■大来軒から派生して生まれた「三日月軒(みかづきけん)」

中町三日月軒:ワンタン麺(750円)。
ほか2店よりもやや甘みを感じるスープです。魚介系があまり得意でない人も、この複雑な甘みのスープならごくごくいけちゃいます。こちらも具はネギ、メンマ、チャーシュー。チャーシューは脂身が少なくしっかりした肉感を感じます。

■極薄ワンタンの中興の祖ともいわれる「満月(まんげつ)」

満月本店:ワンタンメン(780円)。
“ワンタンメンの満月”とうたわれているだけあって、こだわりのワンタンは絹のようになめらかで絶品。魚介系だしのうまみと、ほんの少しの苦みを感じるスープがクセになる!
ネギとメンマと小ぶりなチャーシューが3枚のっています。チャーシューの脂身は少なく肉の歯ごたえを感じます。各メニューは無料で“こってりめ”に変更可能。ゆでてミキサーにかけた背脂を追加してくれます。
(ちなみに、2019年中に東京に進出する予定もあるとのこと。今後の動向は要チェックです!)

極めるなら“月系”をコンプリートすべし

酒田ラーメンは、のれん分けで同じ店名を掲げていても、各店はそれぞれオリジナル。チェーン店のように統一された味ではなく、修行した店の味をベースに、各店主が工夫を重ねて独自の味を追求しています。

「大来軒」「三日月軒」にも支店が多数あるので、それぞれ微妙に違った味わいを楽しむことができます。

また、「三日月軒」や「満月」は「月系」といわれていて、店名に“月”がつくお店が多いのが特徴です。
特に、満月から派生した「満月系」には、「清宝苑」「新月」「昇月」「隆月」「華月」「花鳥風月」といったお店があります。

う~ん。酒田ラーメンは、味わいもさることながら、歴史をひもとくと非常に奥深い。
さらに、進化系の酒田ラーメンも増えています。
酒田を旅するたびに、変わらぬ伝統の味とアップデートされていく進化系の味を食べたくなること間違いなしです。

<データ>
大来軒中央支店
【住所】山形県酒田市中央東町1-51 map
【電話】0234-23-8710
【交通】JR羽越本線酒田駅より徒歩10分
【営業時間】11時~15時
【定休日】水曜日
【駐車場】あり/無料
中町三日月軒
【住所】山形県酒田市中町2-4-7 map
【電話】0234-22-2162
【交通】JR羽越本線酒田駅より徒歩15分。酒田駅よりるんるんバス酒田駅大学線または市内循環A線で5分(100円)、中町西下車徒歩2分。
【営業時間】11時~18時30分(終了が早まる場合もあり)
【定休日】火曜日
【駐車場】なし(周辺駐車場を利用)
満月本店
【住所】山形県酒田市東中の口町2-1 map
【電話】0234-22-0166
【交通】JR羽越本線酒田駅より徒歩17分。または、酒田駅よりタクシーで約5分(780円程度)。路線バスでも行けるが遠回りになるので時間がかかる。
【営業時間】11時~16時30分(金・土・日曜は11時~21時)
【定休日】不定休
【駐車場】あり/無料
〈参考資料〉
『酒田のラーメン物語』(酒田のラーメンを考える会・酒田市麺類食堂組合 共同監修、2013、株式会社平野新聞舗 発行)

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