ミシュランのガイドで高評価!
山形県鶴岡市の 山寺に外国人が注目する理由とは

庄内空港より車で約45分の湯殿山麓にある湯殿山注連寺。2009年2月に『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』で高い評価(注連寺★★/即身仏★★/天井画★など)を受け、今や外国人も注目するスポットになっています。ミシュランによれば、「近くにいれば寄り道をして訪れるべき場所」。車がないと超不便な場所ですが、なぜこんなに人気なのでしょうか?

アクセスは超不便。それでも行きたい場所

注連寺は真言宗の開祖・弘法大師が開いた寺と伝えられています。

寺のある七五三掛(しめかけ)という場所は、高台より眺めると八方に峯が折り重なるように連なり、ちょうど蓮の花が開いたように見えるとされています。実はこれは高野山と同じで、蓮の花の台すなわち蓮台は、浄土のシンボル。ゆえに昔から信仰の地とされてきたそうです。

注連寺へ行くのはなかなか大変。車があれば簡単ですが、ない場合は最寄りのバス停から徒歩で25分以上。森や田畑の中の道を外国からの旅行者が歩いている光景をよく見かけるそうです。

この寺の魅力はいろいろあります。そのひとつが即身仏。四国から北海道まで湯殿山信仰の布教に大きな業績を残し、その記録や碑が各地に残る鉄門海上人の即身仏が安置されて、誰でも拝観できます(残念ながら撮影は禁止です)。

鉄門海上人は生きている時に、自らの意思で左目をえぐり、男根を断ったとか。即身仏となった姿でも、左目のあたりがくぼんで見えます。修行の厳しさに厳粛な気持ちにさせられます。

小説や映画の舞台になり一躍注目を浴びる


鉄門海上人の即身仏が安置され、今では有名な観光スポットになった注連寺ですが、かつては無住で、集落の集会所としても利用される、地味なお寺だったそうです。

注連寺が有名になったきっかけは、戦後間もない頃、本堂の奥にある家に一年ほど居候していた作家の森敦さんが、その体験をもとに書いた小説『月山』が1974年に芥川賞を受賞してから。森さんは受賞当時62歳。受賞の最高齢記録として話題になり“老新人作家”とも呼ばれたそうです。

森さんが注連寺を訪れ、ひと冬を過ごしたのは1951年のこと。小説に描かれている注連寺は、今の注連寺とは異なり、ガランとした廃墟のようなイメージ。さらに彼が注連寺に滞在していた時には、鉄門海上人の即身仏は行方不明だったそうで、小説にはそのことも書かれています。後に京都で見つかり、即身仏は無事に戻ってきました。

最近では、2008年に上映された映画『おくりびと』のロケ地にもなり、話題を呼びました。ところが、映画に登場した頃と比べ、現在の周辺の風景が一変していることに驚かされるかもしれません。

かつて注連寺の周辺は棚田が広がる農村集落地帯でしたが、実は2009年に大規模な地滑りが発生し、ほとんどの住民が避難。今では廃屋が残る閑散とした地区になっているのです。ただ、注連寺の境内や施設は地滑りの難を逃れ、寺までの道のりも安全と確認されています。

ぜひ見てほしい天井アートと七五三掛桜(しめかけざくら)


注連寺でどうしても見てほしいのが、本堂の天井に描かれた天井絵画です。本堂内は原則として撮影禁止なので、これはぜひとも実物を自分の目で見ていただきたいです。住職の興味深い説明付きで、ゆっくりと見ることができます。

「神社仏閣は美術館の役目をしているため、心が落ち着く」と住職。外観は古びたお寺という感じではありますが、柱には立派な彫刻が施してあり、独特な天井絵画が描かれています。

伝統絵画や現代アートが天井に描かれたのは、現住職の先代が「もう一度、一般の人が参拝に来るような寺にしたい」との思いから出た発想だそうです。昔からある畳8枚分もの龍の天井絵画(作者不明)は、「火事にならないようにとのおまじない。昔は普通の家の中にもありました」。

他にも、故村井石斎画伯による伝統絵画「天空の図」、現代作家4人による天井絵画などを見て回ることができます。木下晋氏作の合掌図「天空の扉」や十時孝好氏作の「白馬交歓の図」は、見る位置を変えると印象が違うものに。いろいろな作風で100人の顔の絵が描かれた久保俊寛氏作の「聖俗百華面相図」には、聖徳太子や宮本武蔵、チャップリン、プリンスなど、世界中の人間の顔が描かれています。

住職の説明では、「これは様々な人種を一緒に描き、世界平和を表現している」のだとか。「天空の図」を過去、「白馬交歓の図」を未来、「聖俗百華面相図」を現在に見立てているとの話も出てきます。出羽三山参りは、羽黒山を現在、月山を過去、湯殿山を未来と見立てて巡る「生まれかわりの旅」として江戸時代に広まりました。

拝観の最後には、映画『おくりびと』にも登場した、樹齢約200年の七五三掛桜(しめかけざくら)も。弘法大師が注連縄を張り、この樹の下で修行されたという伝承の残る御神木です(時代が少し合わない気がしますが、それは伝承ということで……笑)。住職によれば「5月上旬に咲き始め、最初は白色,しだいに桃色に変化する」という神秘的な魅力があるそうです。

<DATA>
【住所】山形県鶴岡市大網字中台92-1 map
【電話】0235-54-6536
【交通】JR羽越本線鶴岡駅より最寄りのバス停である大網への直通バスは、17時台と19時台の2本しかないので観光には不適。
現時点で平日に路線バスを利用して行く場合は、鶴岡駅から庄内交通バス朝日庁舎行き(7時37分発)に乗車、終点の朝日庁舎(8時11分着)で鶴岡市営バス田麦俣行(8時30分発)に乗り換えて12分、大網バス停下車後、徒歩25分。運賃は鶴岡駅から朝日庁舎まで770円。朝日庁舎から大網まで200円(乗り継ぎ前のバスの精算時に「乗り継ぎ割引券」を受け取り、乗り継ぎ後のバスの精算時に渡せば100円引きになる。逆方向も同じ)。帰路は、大網発14時47分の朝日庁舎行きに乗車、朝日庁舎で15時10分発鶴岡バスターミナル行きに乗り換え。ただし、鶴岡市営バスは平日のみ運行なので、土日祝休日はタクシーか車。
朝日庁舎から注連寺までタクシー利用は、片道約20分(3500円前後)。朝日庁舎近くの落合ハイヤー(0235-53-2121)へ。予約が望ましい。
車は、山形自動車道庄内あさひICより車で約15分。庄内あさひICを下りて国道112号線を山形市方面へ向かって走り、大網橋を越えるとすぐ、左側に「湯殿山大日坊(瀧水寺大日坊)」の案内板が見える。「注連寺」と「瀧水寺大日坊」は途中までルートが同じなので、この案内を目印に左折するのがオススメ。その道(県道351号線)を進むと、右折「瀧水寺大日坊」、左折「注連寺」との案内板に突き当たる。
【拝観時間】 5月~10月9時~17時/ 11月~4月10時~16時
【拝観料】 大人500円、中高生400円、小学生300円
【定休日】 なし
【駐車場】 50台/無料
【備考】2019年9月29日までの土日祝休日限定で、注連寺や瀧水寺大日坊を回る「朝日地域観光バス」が運行中。詳細はこちらへ

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