日本のミイラ? 即身仏を2体同時に
拝観できる海向寺は異世界への扉か

即身仏って、聞いたことがあるでしょうか?

即身仏のことを日本のミイラと言うことがありますが、実は即身仏といわゆるミイラとは異なるものです。
人間の死体が自然にミイラ化したものではなく、エジプトのミイラのように内蔵を取り出して防腐を施されているわけでもありません。即身仏は、そうなるための長年に渡る修行に耐えた仏様なのです。

「即身仏」になるための究極の修行

庄内地方では、5つのお寺で計6体の即身仏を拝むことができます。中でも酒田市にある海向寺は2体並んだ即身仏を同時に拝観できる日本で唯一のお寺。かつて、海向寺の住職を務めた忠海上人と圓明海上人が、今もなお、世の平穏を祈り続けています。

即身仏になるには究極とも言えるような非常に厳しい修行が必要です。その長い修行を経て、瞑想状態になり、そして死を迎えます。そのため、即身仏の体内は脳も内蔵も残った状態なのです。

即身仏になるための修行は、体づくりからはじまります。
まずは山に篭り、木食修行(もくじきしゅぎょう)で米・麦・豆・ヒエ・粟などの五穀・十穀絶ち。山の木の実や草だけで1000日〜5000日を過ごし、腐敗の原因になる脂肪をそぎ落としていきます。

そして、自分の命の限界が近づいたと悟った後に、嘔吐・発汗・利尿作用がある漆の樹液を飲んで、後に内臓が腐敗したり、虫がわいたりするのを予防してから土中入定(どちゅうにゅうじょう)します。

坐禅が組める大きさの木の箱に入り、深さ約3mの穴の石室へ埋められます。外との繋がりは、2本の竹筒のみで、太い1本は空気穴となり、細い1本は外にいる弟子たちに鈴の音を聞かせるためのもの。鈴の音が聞こえなくなり、成仏したことを弟子たちが知ると、竹筒を抜いて石室は完全に塞がれます。

さらに1000日後に石室は掘り起こされ、腐敗してなければ、お寺に祀られる即身仏になるのです。身動きもできないほど狭く、真っ暗闇の中でひとりお経を唱え続ける土中入定は、並大抵の精神力では耐えられないものでしょう。もがけば姿勢も崩れてしまいます。うーん、ちょっと想像できませんね。

即身仏は、飢饉や疫病、世の不条理から人々を救うための厳しい修行を乗り越え、悟りを開いた尊き存在なのです。

現代に残る即身仏は非常に貴重な存在

とはいえ、あまりに厳しい修行に耐えられない人も、数多くいたと推測されています。難行苦行を乗り越えられず途中で諦めただけでなく、土中の石室で死んだのにその存在が忘れられて掘り起こされずにいたり、死体が腐敗してしまったりなど、失敗することもあったとか。即身仏になれたのは、ひと握りとも言われています。

明治10(1877)年には、即身仏になるための修行は一種の自殺であるとして禁止する法律が施行され、即身仏になろうとした修行者の石室の開封も違法になりました。
一度は祀られていたものの災害により消失してしまった即身仏もあり、現在、全国に安置されている即身仏は17体ほど。非常に貴重な仏様なのです。

弘法大師空海は今も生きているとされています。高野山奥の院に入定(にゅうじょう)した空海は現在も禅定を続けているとされ、今でも毎日、仕侍僧が衣服や食事を給仕しています。
入定とは、真言密教における究極の修行のひとつで、生きながら仏になるために永遠の瞑想に入ること。
庄内の湯殿山は空海によって開かれた真言密教の修行の聖地です。庄内地域に即身仏信仰が生まれたのは、空海が入定した後からとも。日本に現存する即身仏の半数は、湯殿山で修行した僧侶とされています。

即身仏に関する資料、遺品なども展示


現在、海向寺の2体の即身仏は、それぞれ厨子に納められ、即仏堂に並んで安置されています。厨子とは、仏像や経典を安置する扉のある戸棚型の仏具です。
初代住職の忠海上人は1755年に58歳で入定し、9代住職の圓明海上人は1822年に55歳で入定しました。

厨子の扉は普段は閉められていますが、拝観を申し出ると開けてくれます。扉を開くと、ガラスケースの中に即身仏が座った状態で現れます。
忠海上人は姿勢が良く見え、圓明海上人は息を吐いた瞬間のような姿勢で安堵しているように見えます。見比べることで気づく、即身仏の個性。表情も違います。なお、即身仏は原則として撮影禁止です。

住職の説明を受けながら拝観し、展示された資料を見て、それぞれの即身仏の生前の姿を思い浮かべると、不思議な感覚になってきます。即身仏たちの時空を超えた祈りに耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

<DATA>
住所 山形県酒田市日吉町2-7-12 map
電話 0234-22-4264
交通 JR羽越本線 酒田駅より庄内交通 酒田市内廻りAコースバス等で5分(210円)、寿町下車、徒歩約5分
車 日本海東北自動車道酒田ICより約17分
拝観時間 4月~10月9時~17時/ 11月~3月9時~16時
定休日 火曜
駐車場 10台(無料)

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