鶴岡市温海地域(旧温海町)の山間部に位置する山五十川(やまいらがわ)地区。
以前から「ここには立派な玉杉があるよ!」という噂を耳にしていました。
そうはいっても、庄内には立派な杉が各所にあるので、そんなに大差ないだろうと思いながら足を運んでみると、そこには想像を超える感動が待っていました!
玉杉は熊野神社の境内に続く長い石の階段の先に
日本海東北自動車道のいらがわICを降りると、昭和にタイムスリップしたかのような自然あふれる集落が広がります。五十川の流れに沿い、美しい田園を見ながら車でクネクネとした山道を進むこと約10分、山五十川の玉杉のある熊野神社入り口にたどりつきます。
入り口休憩所の壁面には、1996(平成8)年度の温海町立山戸小学校(2016年3月廃校)4年生が制作した「玉杉物語」というお話が掲示されていました。「玉杉誕生」「玉杉と動物たち」「玉杉と村人たち」「玉杉とぼくたち」の4部構成で描かれており、山五十川の歴史にとって、玉杉は大きな存在なのだろうと感じます。
玉杉は熊野神社の境内にあります。さあ、いよいよ玉杉を拝みにいくぞ! と意気込んだところ、目の前に立ちはだかる長い石の階段……。
一瞬気が遠くなりましたが、進んでみると木立からさす木漏れ日や、階段脇を流れる小川の美しさに癒やされ気持ちよく登ることができました。
巨木の神秘的な美しさ、圧倒される存在感
200段以上ある厳しい道のりを登りきり、少し乱れた呼吸を整えてふと顔を見上げると、思わず絶句。想像を超える勇敢な佇まいの玉杉が姿を表します。
高さ約40メートル、根元の周囲は20メートル以上あり、露出している太い根幹はまるで生き物のように地表を這っています。
均整の美しく保たれた姿は全国稀に見るもの! と言われており、1951(昭和26)年には国の天然記念物に指定されています。まさに庄内が誇る、日本を代表する巨樹と言っても過言ではありません。
樹齢は約1500年と推定され、現在も勢いよく成長を続けているようで、近くにある熊野神社拝殿は、玉杉の根っこが下に入り込み、年々肥大している影響で傾いているそうです。
玉杉の名前の由来は、見た目がこんもりとした球の形をしているところから名付けられたそうですが、近くで見てもわかりづらいので、集落の方角から玉杉を見ると形を認識できますよ!
1991年には山五十川地区全戸加入の「玉杉保護会」が発足され、年に一度、周辺散策道の整備や薬剤の散布などが行われていて、玉杉の美しい景観は山五十川に暮らす人々によって現在も守られています。
山五十川は無形民俗文化財が2つもあるディープな集落だった!
そんな玉杉が見守る山五十川地区には、全国でも大変珍しいと言われている2つの古典芸能が伝わっています。いずれも山形県指定無形民俗文化財となっている山五十川歌舞伎と山戸能です。
「山五十川歌舞伎」の歴史は江戸時代の宝永年間(1704~1711)にさかのぼり、疫病から村を救った湯殿山鉄門海上人へのお礼として、若者達が芝居を演じたのが最初とされています。
毎年5月3日には山五十川の鎮守、河内神社の例大祭で奉納され、五穀豊穣を祈願する民俗芸能として文政から幕末明治にかけて盛んに行われ伝承されてきました。
演目は「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」「義経千本桜」などをはじめ、古くから伝承された台本が現在も60数冊保存されており、1970年には山戸能とあわせて斎藤茂吉文化賞を受賞しています。
一方、「山戸能」の起源についての詳細は不明ですが、江戸時代には演じられていたようで、山五十川歌舞伎と同じ毎年5月3日に、河内神社の例大祭で神事能として奉納されています。山戸能と名付けられた理由の1つには、1954年の温海町合併前まで、山五十川集落が山戸村であったことがあげられます。
かつて、明治30年代中頃までは120番ほどあった曲目も、現在は「猩々」「賀茂」「竹生島」「舟弁慶」「兼平」「春日龍神」「羅生門」の9番のみで、毎年1曲ずつ演じられています。
海を背景にした幻想的な夕日能
ちょうど玉杉の取材をしているタイミングで、山戸能が見られる場所があると知り行ってきました。
場所は鶴岡市早田の道の駅あつみにある「しゃりん」で、毎年8月下旬、しゃりんのオープン記念日に「夕日能」として上演されており、今年で28回目を迎えるそうです。
http://www.at-syarin.com/fun.html
ステージはなんと水平線を望める海をバックに設置されており、始まる前から美しい写真を納めようとたくさんのカメラマンが集まっていました。
夕日が沈み始める頃に上演が開始されると、夕日を背にした演者達の姿が影絵のように広がり、能の謡(うたい)と囃子の音にさらに波の音が加わって、まるで異空間に来たような感覚になりました。
このように例大祭の奉納上演以外にも公演活動を行っていて、季節や場所で毎回違った山戸能を楽しむことができそうです。
玉杉と同じように、2つの古典芸能を存続させていくために、山五十川全戸加入の「山五十川古典芸能保存会」が発足されており、古典芸能保存部長・お能係長・歌舞伎係長・裏方係長などの役職を設けたり、子供の頃から稽古をつけたりと、現在も地域が一体となって保存と伝承に力を入れて取り組んでいます。なお、毎年秋(11月23日)にも、山五十川歌舞伎と山戸能が上演されるそうです(問い合わせは山五十川公民館へ)。
歴史と伝統がぎゅっと詰まった山五十川地区。足を運ぶ度にどんどん知りたくなってしまう集落です。
<データ>
山五十川の玉杉
【住所】〒999-7201山形県鶴岡市山五十川字碓井266 map
【入場】見学自由
【交通】バス利用の場合は、JR羽越本線あつみ温泉駅より庄内交通バス戸沢・強竜寺方面行きで約20分(670円)、山五十川診療所下車徒歩10分。バスは平日のみ運行。土曜・日曜・祝休日・年末年始は運休なので注意。観光に適した時間帯は、あつみ温泉発9時18分、山五十川診療所発は12時47分または16時17分を推奨。
車 日本海東北自動車道いらがわICより10分
【駐車場】数台/無料
【備考】玉杉まで200段以上の階段。所要時間5~10分
山五十川歌舞伎・山戸能
【問合せ先】山五十川公民館
【電話】0235-45-2949(平日9時~17時)
【URL】http://www.yamairagawa.com/