「コクのある味わい」「とろりとした飲み口」「フルーティな香り」など、さまざまな表現で評される庄内地方の日本酒。庄内の酒のうまさには定評あります。
日本酒離れが進んでいると言われる昨今ですが、日本人は本当においしい酒を知らないのではないかと思ってしまいます。
国内有数の酒どころとして知られる山形県では、県内の蔵元が協力して「吟醸王国やまがた」に取り組んできました。県内で最も多くの酒蔵を有するのが庄内地方。
庄内の日本酒のうまさの秘密はどこにあるのでしょうか。
農家と杜氏の二足の草鞋。冬仕事から生まれた杜氏集団
庄内地方は江戸時代の大規模な開墾によって日本有数の米どころとなりました。
それだけ農家も多い地域です。
しかし、庄内は冬になると田んぼは雪に覆われ、農作業ができなくなります。
そこで農家が冬仕事として選んだのが酒づくりでした。
秋の稲刈りが終わり、雪が降り始めるころになると、農家は大地主に納めた米を酒に仕込む作業に入ります。
中には製造技術に秀でた者(杜氏)も出てきて、酒づくりを専門とする職能集団も生まれました。彼らは杜氏集団と呼ばれ、酒田では十里塚杜氏、鶴岡では大山杜氏が有名です。
後継者不足や高齢化のため、現在では杜氏集団はいなくなってしまいましたが、春から秋にかけては農業、冬場は酒づくりという二足の草鞋で生きる農家は今でも存在します。
米どころ庄内と称されるのにふさわしく、米を中心としたサイクルができ上がっていたわけです。
それだけではありません。空気が冷たくなる雪国の気候、鳥海山や出羽三山の澄んだ水など、庄内の豊かな自然環境もおいしい酒づくりに適していました。
こうした環境が背景にあって、庄内では昔から酒づくりが盛んに行われ、山形県内でも最も多い18もの蔵元を有するになったのです。
「吟醸王国やまがた 」の誕生
山形県は “吟醸酒”に力を入れている「吟醸王国」です。
吟醸酒とは、精米歩合60%以下の酒米を醸して作られた日本酒を言います。
米は磨き上げるほど雑味がなくなり、フルーティな香りが増してまろやかになります。その磨き上げた割合を精米歩合といい、精米歩合60%以下の米で醸造したものが吟醸酒です。
吟醸酒は、もともと新酒鑑評会などで賞を取りにいくための特別な酒であり、いわゆる高級酒の部類に入るものでした。
日本酒の生産量では新潟県や秋田県に及ばない山形県は、“量”よりもあえて“質”の吟醸で勝負することを選びます。
驚くべきは、県内の各酒造メーカーが結集し、その秘伝の製造技術や情報などを教え合ったこと。本来であれば門外不出とされるべき会社の技術や分析データ。いわば企業秘密を山形全体の技術向上のために共有したのです。そうして得られたデータは講習会などによりメーカーへフィードバック。これを繰り返すことで県内すべての酒蔵の製造技術を向上させました。
こうした取り組みを数十年にわたって続けてきた結果、山形県の吟醸酒は全国新酒鑑評会で常に上位5県に入る「吟醸王国」となりました。2016年には、清酒では国内初となる県単位での地理的表示「GI山形」の指定を受けています。
技術を教え合う精神は、庄内・酒田が発祥の地
この製造技術を教え合うという取り組みは、戦後まもなく酒田市の蔵元たちによって発足した酒田研醸会が発祥であるとされています。
自社の企業秘密をライバルにさらけだすというのは、通常では考えられないことです。
しかし、生産技術を教え合うという行動は、そもそも農村集落においては昔から普通に行われてきたことでした。
長く厳しい冬が続く庄内において、米の不作は生死に関わる重大な問題です。生き延びるためには、農家それぞれがもつ技術や情報を独占するよりも、集団で持ち寄って学び合い、皆で助け合いながら生産するほうが効率的だったのです。
もしかすると、酒づくりの製造にも、こうした東北の生きる知恵が生かされているのかもしれません。
また、製造技術の共有は、各蔵元のオリジナリティの創出にもつながりました。地域全体の蔵元が協力して学び合いつつも、互いに切磋琢磨し、そこからさらに自社オリジナルの個性的な酒づくりに励んでいくことになるのです。
見学・試飲ができる庄内の酒蔵
個性的な銘酒を生み出してきた庄内地方。
庄内には現在18社の酒蔵がありますが、その中から工場見学や試飲コーナーなどが楽しめる酒蔵を厳選して紹介いたします。
・東北銘醸株式会社 【酒田市】
すべてのお酒を伝統技術「生酛造り」で製造する全国でも数少ない蔵元。
代表銘柄:初孫
工場見学:可(団体は要予約)
資料館:あり(10時~16時30分)
休館:月曜日 冬期(12月~1月下旬)
試飲:あり
URL:http://www.hatsumago.co.jp/
・楯の川酒造株式会社【酒田市】
世界のTATENOKAWAを目指す、若手中心となった新進気鋭の蔵元。
代表銘柄:楯野川
工場見学:不可
試飲:あり(銘柄は日替わり)
URL:http://tatenokawa.com/ja/sake/
・株式会社 オードヴィ庄内
小さいながらも、丁寧できめ細かな酒づくりをする蔵元。
鳥海山の澄んだ伏流水でつくる地酒はまろやかで飲みやすい。
代表銘柄:清泉川
工場見学:可(要予約。15名くらいまで)
試飲:あり
URL:http://kiyoizumigawa.com/
・株式会社 渡曾本店【鶴岡市】
創業元和年間、380年余の老舗蔵元。展示品多数の資料館は一見の価値あり。
銘柄:出羽ノ雪、和田来
工場見学:可(作業場の外からの見学)
資料館:あり(8時45分~16時30分)
休館:1月1日~1月3日
試飲:あり
URL:https://dewanoyuki.jp/
取材協力/有限会社 木川屋商店 代表取締役 髙橋修一 氏
tel:0234-23-6300(新橋本店)
Mail:info@kigawaya.com
URL:https://www.kigawaya.com/